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乾杯は地元の酒で

第2回 街は愛されると、自然と美しくなる

武庫川女子大学准教授 三宅正弘さん

地元を愛し、地元で活躍する方々のところへお邪魔し、地元への思い、そしてお酒に関することを、あれこれ伺うコーナー「乾杯は【地元の酒】で!」。第2回目の登場は、河内厚郎さんから紹介された、武庫川女子大学准教授・三宅正弘さん。ケーキ、寿司、カレーなど、決めたものを毎日食べて歩き回り、街の“宝物”を探しています。

三宅正弘(みやけまさひろ)さん

1969年芦屋市生まれ、関西大学卒業、京都大学大学院修士課程修了、大阪大学大学院博士課程修了、工学博士。
都市計画コンサルタントや徳島大学助手を経て、現在、武庫川女子大学生活環境学部兼生活美学研究所・准教授。
専門は、まちづくり、地域デザイン、環境デザインで、「鳴尾苺保存会」代表、「石の銀行」頭取、市史編纂から産業振興まで多様な分野の公職も務める。芦屋市在住。

毎日カレーを食べながら、街の情報収集

三宅研究室の前には、鳴尾苺保存会の参加を呼びかけるチラシが・・・
三宅研究室の前には、鳴尾苺保存会の参加を呼びかけるチラシが・・・
――まちづくりが専門の三宅さんの著書は、タイトルに“地域の資源”が出ていておもしろいですね。

『石の街並みと地域デザイン ―地域資源の再発見―』では、石は地域によって色が違っていて、例えば西宮は桜色なんですが、石が自分の街を意識させてくれると書きました。『神戸とお好み焼き ―まちづくりと比較都市論の視点から―』では、神戸の下町の人がお好み焼きやソースの話になると熱くなることを考察していて、また『遊山箱 節句の弁当箱』の研究は、徳島大学助手時代に出会った徳島の人が、子ども時代の弁当箱の話になると夢中になるのを目の当たりにしたことが始まりなんです。

僕は、まちづくり、地域デザインが専門ですが、地域の人にとっては「都市計画」なんて抽象的すぎて、ワークショップで出てくるのは苦情ばかり。でも、地域の資源という“宝物”の話になると議論がスムーズになる。武庫川女子大周辺の旧鳴尾村の場合は、その“宝物”が苺なんですよ。

――先月出版されたばかりの著書『甲子園ホテル物語 西の帝国ホテルとフランク・ロイド・ライト』にも、鳴尾苺の話が出てきますね。

戦前に、高松宮様も新婚旅行で宿泊された甲子園ホテルのパンフレットには、お土産としてチョコレートと並んで鳴尾苺が掲載されていたんです。かつては西宮のブランドだった鳴尾苺の復活を、今、学生と一緒に手掛けていますが、 この鳴尾苺のように、みんなが夢中になって楽しめる「宝物=テーマ」を探すためには、街をじっくり歩かなければ見つけられない。僕のゼミ入る条件は、「大学から三宮や梅田まで歩ける人」なんです(笑)。

僕がケーキを毎日食べてスケッチする話は、あちこちでしてきましたが、今のテーマは神戸のカレーで、食べ続けて今日(取材日)が41日目になります。夜10時まで会議がある日はちょっと苦しいのですが(笑)、血圧と相談しながら100日までは続けるつもりです。神戸のカレーは元を辿れば、オリエンタルホテルか、船に乗ってた人か、どちらかに行きつくんです。また、お店の味や値段から地域の特徴が見える。食べているのはカレーだけど、やっていることは街の情報収集なんです。
<左>“地域の資源”について書いた、代表的な著書4冊
<右>ケーキ、寿司、カレーを食べ歩いたら、絵や特徴を必ずノートに記録
<左>“地域の資源”について書いた、代表的な著書4冊
<右>ケーキ、寿司、カレーを食べ歩いたら、絵や特徴を必ずノートに記録

徳島から西宮まで船に乗って、灘の酒を飲みに

携帯電話は持ってなくて、パソコンも最低限しか使いません。だって、使いこなせば仕事が増えて、街歩きの時間が減るでしょ。街歩きは僕にとって大切な仕事であり、ストレス解消なんです
携帯電話は持ってなくて、パソコンも最低限しか使いません。だって、使いこなせば仕事が増えて、街歩きの時間が減るでしょ。街歩きは僕にとって大切な仕事であり、ストレス解消なんです
――さて、お酒に関する話題に移りますが、西宮といえば、灘の酒ですね。

 武庫川女子大の周囲を歩いてみると、カップ酒の瓶を洗浄する会社があり、酒の街・西宮の一端を鳴尾でも担っているんだと感じます。そんな小さな工場の特徴は、やはり自分の足で歩き回らないと見つけられないんですよ。

 ところで、昭和40年ごろ行楽で使われた三段重ねの弁当箱「遊山箱」の研究と復活に取り組んだ縁で、今でもよく徳島に行きますが、先日、遊山箱の展覧会場で出会った徳島の人に、「西宮の灘には、よくお酒を飲みに行くんです」と言われました。「白鹿」や「白鷹」など、わざわざ灘の酒を飲みに徳島から来てくれるのがうれしくて、西宮のことを色々と話したのですが、他の場所は甲子園球場も、ららぽーと(甲子園)も、(阪急西宮)ガーデンズも知らないと言うんです。道も駅も分からないなんて不思議だなぁとよくよく聞いてみれば、車や電車ではなく、船で西宮に来てるんです。クルーザーなんて高級なものじゃなくて、中古車より安い船に皆で乗り合わせて、灘の酒を飲みにね。

――なるほど、船という交通手段があったんですね。

江戸時代後期に、伊丹や池田を抜いて灘が酒どころとして発展したのは、海に面していたため、江戸への輸送が有利だったからです。海運は、時間はかかるけれどエコですし、トラック中心の輸送から海上輸送に再び目を向けても良い時期に来ているのかも。西宮の玄関口を海側にすると、街はもっとおもしろくなるんじゃないかと、僕は考えているんです。

僕が市長なら、水産、農業でまちづくり

「神戸港で紙テープを投げる会」が用意した、色とりどりの紙テープ。出港する船上から港に投げてもらう。
「神戸港で紙テープを投げる会」が用意した、色とりどりの紙テープ。出港する船上から港に投げてもらう。
――街を歩いて、スケッチして、まちづくりを仕掛けている三宅さんですが、子どもの時からよく散歩を?

父親と一緒に、目的地を決めずに街を散歩していました。男同士なので面と向かってあまり話はしないのですが、歩きながらだと自然に話題が出てきて、父は子ども時代の話などを時々してくれました。また、神戸港に外国客船がやって来た時には、家族で見に行き、よく紙テープを投げていたんです。当時の神戸港は、オランダのロッテルダムに次ぐ世界第2位の港でしたから、活気があってね。でも、今は国内4位に下がり、世界ランクも随分と下の方なので、とても残念です。僕は神戸を世界に名立たる都市に戻したいと本気で思っていて、日本名物の紙テープ投げを実施しています。「神戸港で紙テープを投げる会」を作って(笑)。色とりどりの紙テープで見送られると、出港する外国の人は、きっと神戸に対して良い印象を抱き、再びここにやって来てくれると思うんです。「50円の紙テープで、神戸を世界三大港に!」がスローガンなんです。


――夢がありますね。では最後に、西宮に対する思いを聞かせてください。

僕が西宮市長だったら、まちづくりは、水産業と農業を軸に考えます。かつて西宮には、甲子園ホテルと播半という、日本を代表する洋と和のおもてなしの場がありました。その豊かな食文化は、地元のブランド野菜や自然環境にも支えられていたのです。今、緑地や環境を考えるとお金がかかりますし、都市計画を掲げても、地域の人の参加意欲は低い。けれども、地元の人がつい自慢して語りたくなる、かつての西宮ブランド野菜だったり、西宮浜で獲れたさくら鯛などの復活を一緒に考えると、建設的な意見も出てきて、環境も水質も自然と良くなります。時間はかかるかも知れないけれど、みんなが楽しめる“地域の資源”から、僕はまちづくりを考えていきたい。だって、行政が無理に計画を立てなくても、地域のみんなが街に関心を持って街のことが好きになると、街は自然と美しくなるのですから。見られて美しくなるのは、人と同じことですよ(笑)。

三宅正弘さんからのお友達紹介

建築家で都市プランナーの星田逸郎さんを紹介します。僕は「石の銀行」で需要と供給のマッチングをしていますが、星田さんはその石を使って地元に合うデザインを考え、街を活性化している方です。
河内厚郎さん→三宅正弘さん→星田逸郎さん

2009年6月掲載